七帝柔道の猛者が開発した寝技!SRTを習得!

今回は一般的な講道館柔道とは異なり、寝技重視の高専柔道の流れを汲む七帝柔道の選手が開発した、SRTという寝技を紹介します。名前の由来ですが、スーパーローリングサンダー(Super Rolling Thunder)という造語の頭文字を取ったものといわれています。

他にも色々な別名があり、技を掛けた状態の見た目から”腹包み”と呼ばれていたり、開発者の名前を取って”遠藤返し”、また柔道男子73kg級の元日本代表である秋本啓之(ひろゆき)選手が得意としていたことから、”秋本返し”と言う人もいます。

この技の特徴は、『亀の防御姿勢を取っている相手を一気にめくり返して押さえ込める』という点です。

上手く掛けると、相手は抵抗できずにめくり返されてしまい、さらに押さえ込まれた後は通常の寝技と異なり、身動きが全く取れなくなってしまいます。一度完璧に押さえ込まれると脱出するのはかなり困難であることから、高確率で一本勝ちを収めることが可能です。

前述の秋本選手もそうですが、最近になりオリンピックや世界選手権等でも寝技の攻防の際にこの技を使う選手がちらほら出てきました。しかしながら、柔道界全体の知名度としてはまだまだ低い部類の技だと思います。

この技もポイントをしっかり学んだ後、反復練習を徹底して行えば誰でも身に付けることが可能ですので、是非普段の稽古に取り入れてみると良いかと思います。

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1.高専柔道、七帝柔道とは?

皆さんがオリンピックや世界選手権等のテレビ中継で目にする柔道は、”講道館柔道”と呼ばれるものです。内股や背負い投げ、大外刈りといった立ち技がメインとなっている、いわゆる一般的な柔道です。

しかし、戦前にはこの講道館柔道と並び、旧制高等学校(現在の東京大学や京都大学といった優秀な大学の教養教育課程に相当)等の柔道部員達によって進化・発展を遂げた、”高専柔道”と呼ばれるものも存在しました。

この高専柔道の特徴は、何と言っても寝技です。

当時から、全国高専柔道大会と呼ばれる学校対抗の勝ち抜き団体戦(お互いチームの中から順番に選手を出して対戦させ、勝ったらそのまま次の相手と対戦し、対戦していない選手が残ったチームが勝ち)が盛んに行われていました。

各校ともこの大会で優勝することを目標としており、そのためには選手を育成しなければなりませんが、旧制高等学校等の優秀な学校の新入生達は、皆勉強ばかりで肉体的に貧弱な者がほとんどでした。

講道館柔道のように立ち技を教えようとすると、一人前になるまでに相当な時間が掛かってしまいますし、怪我のリスクもありました。

そこで彼らが目を付けたのが寝技でした。

寝技であれば正しい理論と膨大な練習量をこなすことで、立ち技よりもはるかに短期間で戦力となる選手を確実に養成することができたのです。

勉強と似たところがあったのでしょうか、頭脳明晰で反復練習を継続することを苦にしなかった彼らは、この寝技を徹底的に磨き上げ、各校とも毎年のように新技を開発して、自身と学校の名誉を掛けてこの戦いに挑んでいたのです。

その後、時代の流れとともに旧制高等学校等が今日の大学に移行されると、高専柔道は北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の旧七帝大に、”七帝柔道”として引き継がれました。

現在も全国七大学柔道優勝大会(七帝戦)として、高専柔道の長い歴史を受け継ぐこの唯一無二の大会で優勝すべく、7つの大学がしのぎを削って日々寝技の稽古を積んでいます。

今回紹介するSRTという技は、上記の旧七帝大の1つである京都大学の遠藤選手が開発したと言われています。一般にはあまり知られていない一方、七帝柔道界ではもはや非常にポピュラーな技となっており、派生技も開発されています。

こうした点から、講道館柔道と七帝柔道を比較すると、寝技の新技開発に対する貪欲さ、スピード感に大きな違いがあることがよく分かると思います。

(七帝柔道に関しては、以前の記事でも少し触れていますので、こちらも一度参考にしてみると良いと思います。現役柔道家最強の寝技師が開発!加藤返しを習得!)

2.SRTとは?

SRTについて説明していきます。今回も専用のパラパラ動画を用意しました。

柔道の中でも寝技は立ち技と比べてセンス等が必要ない分、動き方やその理屈をしっかり見て頭で理解しておかなければなりません。どのように技を掛けているか、何度も見直して目に焼き付けるようにしてください。

パラパラ動画 SRTの一連の流れ その1
パラパラ動画 SRTの一連の流れ その2

技を掛ける方は亀の状態を取った相手の左側につき、左手で相手の右側の柔道着のすそを可能な限り引っ張り出します。次に右手を相手の左わき腹から突っ込み、相手の腹の下を突き抜け、先ほど引っ張り出した柔道着のすそをしっかり握ります。

左手を相手の帯に握り変えたら、両わきをしっかり締めて相手と密着します。その後、両足で畳を歩きながら、相手に体重を掛けるようにして一気にめくり返します。返した後は両わきをしっかり締めたまま、縦四方固めで押さえ込みます。

ポイントは自分の両わきです。縦四方固めで押さえ込んだ際に両わきが締まっていることで、自分の左うでは相手の頭を持ち上げ、自分の右うでは相手の胸から腹をまるでたすきを掛けるように通しているため、相手の体を固定し動きを封じます。

つまりこの状態は、相手からしたら首から下は全く動かせないのに、首だけが強引に起こされることになります。こうなると気管がつぶされて呼吸も上手くできないほど苦しくなります。

あまりの息苦しさに、相手によっては押さえ込んでいる最中に”参った”をすることもあります。私も何度もこの技を掛けられましたが、身動きできないのに首だけ無理矢理起こされるというのは想像以上に辛いものがありました。

逃げようとする相手の気力をへし折ることができるのも、この技の特徴の1つです。

3.SRTの掛け方とポイント

SRTの掛け方とそのポイントについて、写真を使って説明していきます。

まず下の図1のように、亀の状態を取っている相手の左側につき、左手で相手の右側の柔道着のすそをできるだけたくさん引っ張り出します。この引っ張り出しが多ければ多いほど、柔道着を奥深く握ることができますので、その分相手をしっかり制御することができます。

図1 左手で相手のすそを引っ張り出す

次に下の図2のように、自分の右うでを相手の左わき腹から突っ込んで、相手の腹の下を突き抜けて、引っ張り出した柔道着のすそを右手で握り直します。左手も使って柔道着をたぐり寄せ、可能な限りすその奥深くを握ることを意識してください。

図2 相手の腹の下を通した右手で柔道着のすそを握り直す

下から見ると図3のようになっています。右手で相手の柔道着のすそを握っており、右うでは相手の胸から腹の部分を、たすきを掛けるように通しているのが分かります。

図3 相手の腹の下を通した右うでの様子

ここで下の図4のように、左手は相手の帯に握り替え、両わきをしっかり締めて相手の体と密着します。この両わきの締めが強ければ強いほど、相手をめくり返す時も押さえ込んだ時も、逃がさずしっかり制御することができます。

図4 左手で相手の帯を握って両脇を締める

いよいよ相手をめくり返します。下の図5のように両足で畳を歩きながら相手の方に一気に体重をかけることで、相手がめくり返ります。

図5 畳の上を歩きながら体重をかけて相手をめくり返す

最後に下の図6のように押さえ込みに入ります。縦四方固めに近い形で押さえ込んでいますが、両わきがしっかり締まっていることで、相手は首から下を動かすことができず、首だけ強引に持ち上げられた状態となります。

この体勢は非常に息苦しく、押さえ込みを逃げることなく”参った”をする選手もいるほどです。寝技の不得意な選手が相手であれば、この時点でほぼ勝利は確実なものになるといっても過言ではありません。(もちろん油断してはいけませんが。)

図6 押さえ込みの完成

4.SRTの鉄則

最後に、技の理解と威力を深めるため、SRTの鉄則について説明しておきます。『3.SRTの掛け方とポイント』で解説した、両わきをしっかり締めて相手と密着する点に注目してみましょう。

左手で相手の帯を握った後、相手をめくり返す前に両わきをしっかり締めて相手の体と密着する必要があると説明しました。この理由は、相手と一体化することにより、技を掛ける方が生み出すエネルギーを相手にしっかり伝達できるからです。

過去の記事(立技からいきなり寝技で押さえ込む!帯取り返しを習得!)に書いた内容と同様に、SRTにおいても相手の動きを制御し自分と一体化することが大切なのです。

分かりやすい例として、下の図7のように摩擦のないつるつるした床に置かれた板の側面を、指先で持ち上げようとする場合を考えてみましょう。

図7 板を指先で持ち上げるようとする

床は滑りやすく、板以外は何も置かれていないとすると、指先で板を持ち上げようとしても、板は下の図8のように床の上を横滑りしてなかなか思うように持ち上がりません。

図8 板は横滑りし持ち上がらない

そこで、床に2本のストッパー(突起物)を置いてみます。板の側面を各ストッパーに当たるようにしてから、再度指先で板を持ち上げようとすると、下の図9のように簡単に持ち上がります。ストッパーが板の横滑りを防いだため、指先の力が板に直接伝わるようになったのです。

図9 板はストッパーにより横滑りせず持ち上がる

この様子をSRTの動きに当てはめてみます。板が相手、指先が技を掛ける方とすると、ストッパーで板の横すべりを防ぐことが両わきを締めることに相当します。こうすることで、技を掛ける方が生み出す相手をめくり返すエネルギーが、相手に無駄なく伝わるというわけです。

両わきをしっかり締めて相手と一体化することがいかに重要か、ご理解いただけたでしょうか?

5.ポイントの整理

今回は七帝柔道の選手が開発した、SRTという寝技について取り上げました。

まだまだ一般的には知られていない技ですし、亀で防御する相手を一気にめくり返すことができるので、知っておくと非常に効果的です。

両わきをしっかり締めることさえ意識しておけば、他にはそれほど難しい動作はありませんので、思いのほか容易に身に付けられると思います。あとは十分な反復練習と実戦練習を重ね、自分のものにしていただきたいと思います。

最後にSRTの重要ポイントを再度おさらいしておきます。

・亀の相手の左側につき、相手の柔道着のすそを左手で引っ張り出す
・右うでを相手の左わき腹から突っ込む
・柔道着のすその奥深くを右手で持つ
・左手を相手の帯に握り変える
両わきをしっかり締めて相手と密着する
両足で畳を歩き一気に体重を掛け、相手をめくり返す
両わきをしっかり締めたまま、縦四方固めで押さえ込む

次回も寝技を中心とした、知っておくと有利な技をお伝えしていきます。