現役柔道家最強の寝技師が開発!加藤返しを習得!

今回は日本の現役柔道家の中で【最強の寝技師】と呼ばれる加藤博剛(ひろたか)選手が開発した、加藤返しという技を紹介します。この技は別名”加藤スペシャル”や”カトスぺ”、また加藤選手が沖縄出身であることにちなんで”ハブ固め”等とも呼ばれています。

この技の特徴は何と言っても『自分より体の大きな相手でも寝技で押さえ込める』という点です。

寝技好きな柔道家の中では結構メジャーな存在になってきましたが、試合等の実戦において積極的に使っているのは、加藤選手を除いてあまり見たことがありません。だからこそ、自分の得意技の1つとして身に付けておけば、同階級はもちろん体重無差別であっても、寝技の攻防において必ずや優位に立てると思います。

センスや運動神経は必要無く、正しい技の手順を覚えた後に継続した反復練習を行うことで誰でも習得可能です。おすすめの技ですので、この記事を読んだ後に是非とも普段の稽古から取り組んでみてはいかがでしょうか。

加藤博剛選手 特集サイト

(2020.2.29追記)
先日幸運にも、加藤博剛選手のお兄さんである、加藤博仁(ひろよし)さん(千葉県警察)に直接ご指導を受ける機会に恵まれました。加藤さん曰く、「加藤返しは元々私が高校生の頃に開発し、実際に試合で使っていたのですが全く掛かりませんでした。しかし弟(博剛選手)に教えたところ、なぜか面白いように掛かっていたので一躍有名になっていったようです。」とのことでした。

加藤返しのポイントは、相手の右うでをロックする際、自分の右わきを強烈に締めて固定すること、相手を回転させる直前に自分のお尻を畳に落とし、相手が簡単に動かないように自重でコントロールすることと教えていただきました。自重で相手を制御するのは帯取返しと似ていますね。開発者直伝の技術として、追記いたします。

(2020.6.7追記)
加藤博剛選手も加藤博仁さんも、寝技で有名な超強豪校・国士舘大学のご出身です。強豪と呼ばれる大学柔道部の中でも、特にこの大学は寝技を得意とする選手が多く所属していることでも知られています。国士舘大学では加藤返しの他にも、シバロックと呼ばれる独特な変形縦四方固めも編み出されました。(
シバロックについて)

私がまだ現役学生だった頃、このシバロックの開発者が実際に私の所属する大学柔道部に練習に来てくださったことがありましたが、技の説明が論理的であるだけでなく、とても紳士的な方でした。突き抜けた強豪校というのは、柔道だけでなく、人格の面でも優れた人材を輩出するのだなと、学生ながらに思ったものでした。

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1.加藤返しとは?

加藤返しについて説明していきます。私の身の回りでも、寝技が好きな柔道家達がこの技の応用版を色々試行錯誤して開発していましたが、今回は一番基本となるパターンに絞って習得していきましょう。

相手が亀(畳の上で丸まる防御体勢)の状態になった際に仕掛け、最終的に後袈裟固めで押さえ込むという一連の流れを紹介します。まずは下記のパラパラ動画を観て、後袈裟固めに入るまでの動作をじっくり観察してみましょう。

パラパラ動画 加藤返しの一連の流れ

ざっくりと説明すると、技を掛ける方はまず相手のうでを自分のうでで挟み込んでロックします。その後、相手を前転させるようにひっくり返し、足で畳を蹴って相手にずり上がっているのが分かりますね。この後に後袈裟固めで相手を押さえ込みに行きます。

意外に思えるかもしれませんが、相手を回転させる際にはそこまで大きな力を必要としません。しかも一度ひっくり返されると、相手は技を掛ける方の手が離れない限り、逃げることが困難となります。このことから、冒頭で話した通り『自分より体の大きな相手でも寝技で押さえ込める』というのがこの技最大の特徴となっています。

試合において相手が亀の状態になることはよくあります。例えば立技の攻防の末、互いにもつれて畳に突っ伏した際、相手があまり寝技をやらない選手だった場合はすぐに亀の状態になって防御姿勢を取ることがあります。寝技の動きが止まり、審判が「待て」の宣告をして再び立技から仕切り直すのをじっと待つわけです。

もちろん反則ではないので何も問題はありませんが、観ていて非常に危なっかしい体勢だなといつも思います。相手は亀の体勢を取ることで、自ら攻撃の機会を放棄し防御一辺倒になってしまいます。つまり、亀の状態となることで自ら逃げの体勢を取ってしまうわけです。

加藤返しを1つ覚えておけば、相手が亀の状態になったら絶好のチャンスです。逃げの体勢となった相手がいくら踏ん張ってこらえようとしても、逃さず簡単にひっくり返して押さえ込むことが可能です。たとえ自分よりも体格の大きな選手が相手だったとしても、比較的少ない力で返すことができ、しかも逃げられにくいので最後まで押さえ切って勝つことが可能です。

ただし注意しないといけないのは、特に国際ルールの場合ですが、今述べたように寝技の攻防が止まった(動きが止まった)と見なされるとすぐ審判に「待て」を掛けられて再度立技から仕切り直しとなってしまいます。

加藤返しに限らず、寝技全般に言えることですが、一旦寝技の攻防をスタートさせたら動きを止めず、スピード感を持って一気に押さえ込みや絞め、関節の極めまで行くことが大切です。七帝戦(※1)や旧三商戦(※2)のような寝技を重視する特殊ルールの場合を除き、一般的な試合(国際ルール)においては常にこの意識を持っておくように心がけましょう。

※1) 七帝戦
北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学で争われる寝技中心の柔道大会。現在の講道館柔道に対し七帝柔道と呼ばれる。

※2) 旧三商戦
一橋大学、大阪市立大学、神戸大学で争われる柔道大会。講道館柔道と七帝柔道の中間に位置するルールで行われる。

2.加藤返しの掛け方とポイント

加藤返しの掛け方とそのポイントについて、上のパラパラ動画に沿って説明していきます。数ある柔道の寝技の中でも独特の動きをしますので、パラパラ動画をしっかり観ながら読んでみてください。

まず技をかける方は、亀の状態になっている相手に対し、自分の右ひざと両手を使って相手の右ひじを外側に引っ張り出します。当然、亀になった状態から簡単に右ひじを取らせてくれる相手はまずいませんので、右ひざも使って相手の右ひじをかき出すことが重要です。

次に、下の図1のように相手の体とかき出した右ひじでできた輪の中に、自分の右うでを上から(背中側から)入れます。技を掛ける方は自分の左えりをしっかり握るとともに、右わきを固く締めることで相手の右うでをロックします。このロックが甘いと、相手をひっくり返す際に反撃され逆に押さえ込まれてしまう可能性もあるので注意してください。

図1 相手の右うでをしっかりロックする

ここで下の図2のように技を掛ける方は尻を畳に付けて座る体勢をとり、左手で相手の下ばきの右ひざ外側部分を握ります。もちろん先ほどの右うでは、離さずしっかりロックした状態を維持してください。

図2 相手の下ばきを握る

そのまま下の図3のように自分の両足で踏ん張り、右うでを中心として左手を大きく円を描くように回します。すると相手は前転をするようにひっくり返ります。ロックした右うでだけで強引に回すのではなく、下ばきを持った左手を利用することで、少ない力で相手を回転させることが可能となっています。ひっくり返った後は、技を掛ける方も相手も、ともに畳に寝ている状態となります。

図3 左手を回して相手をひっくり返す

ここからが勝負です。技を掛ける方は相手が逃げようと起き上がってくる前に、両足で畳を押しながら後ろ向きで一気に進み、自分の体をすぐに相手の体まで乗り上げます。ただし、やりすぎると逃れようとする相手の動きに巻き込まれ返されてしまうため、自分の腰が相手の脇腹に当たるくらいまでを目安にすると良いでしょう。

相手は逃げようと懸命に左右を向いて暴れますが、自分の右うでのロックと左手の握りは絶対に離してはいけません。この2か所をしっかり押さえておくことで、相手は左方向に逃れることができず、逆に右方向に逃れようとしてもずり上げた自分の体がありますので手の施しようが無くなります。状態としては下の図4のようになります。

図4 後ろ向きに進んで相手に乗り上がる

とにかく技を掛ける方と相手との、どちらが早く起き上がるかの勝負になります。私も実際に経験があるのですが、起き上がるのが相手より一瞬でも遅れると、反撃され逆に押さえ込まれてしまいます。十分注意してください。

実際には技を掛ける方は両手を使って相手を制御しているのに対し、相手は右うでしか相手と絡んでいませんので、どちらがお互いの体をコントロールし攻防を支配しているかといえば、圧倒的に技を掛ける方です。

しかしながら、反撃されるリスクを最小限に抑えるためには、やはり相手よりも一瞬でも早く動いて攻勢を取るのがベストだと私は考えています。加藤返しにおける重要なポイントですので、何度も反復して体に覚え込ませるようにしましょう。

最後に下の図5のように後袈裟固めで相手を押さえ込めば完成です。技を掛ける方は右うでで相手の右うでをしっかりロックしたまま、左手は下ばきから離して相手の帯や下ばきを握り、しっかり押さえ込むようにしましょう。特に右うでは後袈裟固めの生命線ですから、離してしまうとすぐ相手に逃げられてしまうので注意してください。

図5 後袈裟固めで押さえ込んで完成

3.加藤返しの鉄則

最後に、技の習熟度を上げるため、加藤返しの鉄則についても踏み込んで説明しておきます。『2.帯取り返しの掛け方とポイント』で解説した、相手の下ばきを左手で握って回す動作に再度注目してみましょう。

亀の体勢になった相手をひっくり返す際、ロックした右うでだけではなかなか返らないため、左手で相手の下ばきを握って回すことで、少ない力で相手をひっくり返すことが可能となるのでしたね。これは回転する際の円の半径を大きくすることで、少ない力で相手を回すことができる原理を応用しています。

皆さんも日常生活において、これと同じような現象を見たこと体験したことがきっとあると思います。たとえば、下の図6のように固く閉まった水道の蛇口があったとしましょう。

図6 蛇口が固くて開かない状態

どうしても水が飲みたいのに、蛇口がガチガチに固まってなかなか開かないのでは困ってしまいますよね。要は蛇口を回す力が足りないわけです。そんな時は下の図7のように、蛇口の回す部分を半径のより大きなものに変えてみましょう。

図7 回す部分の半径を大きくしたら開いた!!

回す部分の半径を大きくすることで、蛇口が開くことがあります。 詳しい理屈は省略しますが、回す部分の半径を大きくすることで、人が蛇口を開ける力を増幅してくれるのです。

この原理を加藤返しに当てはめてみます。相手を蛇口に見立てると、右うでのロックだけで相手をひっくり返そうとしても、回す部分の半径が小さいため、体格差のある相手ではなかなか思うようにいきません(蛇口が開かない)。そこで左手で相手の下ばきを握ることにより、 回す部分の半径が大きくなり 、軽い力でひっくり返すことができるようになります(蛇口を開ける力が増幅される)。

加藤返しがいかに効率よく相手を回転させられるよう考えられた技か、ご理解いただけたでしょうか。

4.最後に

今回は数ある柔道の寝技の中から、少ない力で相手を押さえ込める加藤返しについて取り上げました。

この技はセンスや運動神経が必要でない一方、右うでのロックをしっかり行うことや、相手をひっくり返した後の競り合いに勝つことが要求されます。しかしながら、これらは日々の稽古による積み重ねで誰でも習得可能です。是非あきらめずに何度もチェレンジし、自分のものにしていただきたいと思います。

最後に加藤返しの重要ポイントを再度おさらいしておきます。

 ・自分の右ひざと両手で、亀の体勢を取った相手の右ひじを引っ張り出す
 ・相手の体と右ひじでできた輪の中に、自分の右うでを上から(背中側から)入れる
 ・左えりを握って右わきを締め、相手の右うでをロックする
 ・尻を畳に付け、左手で相手の下ばきの右ひざ外側部分を握る
 ・両足を踏ん張り、右うでを中心に左手を大きく回し相手をひっくり返す
 ・両手は離さず後ろ向きに進み、相手に乗りあがる
 ・後袈裟固めで押さえ込む

次回も寝技を中心とした、知っておくと有利な技をお伝えしていきます。